2008年4月


春ですね。


もはや毎年の風物詩ですが、新社会人が慣れない通勤電車の洗礼を受け、その影響で列車が遅延するなど、運行ダイヤが乱れることがこの時期にはよく起きます。
(しかし今年は例年になくひどかったような気が....)


そんな乱れた運行ダイヤにも機敏に対応し、それでいて安全かつ円滑な旅客輸送を行うためには、それなりの後方支援部隊の働きが重要になります。そしてその支援部隊と現場とを繋ぐ連絡手段もまた重要になってきます。



今回はその旅客輸送における連絡システムと、それへのハック(性的な意味ではなく)がテーマです。
ポロリもあるよ!



鉄道には「列車無線」という連絡システムがあります。

これは、その名の通り鉄道車両の乗務員と運転司令所との間の連絡を行うための無線通話システムであり、両者間での情報提供や運転司令所から車両への運転指示の際に用いられます。


Wikipediaにも、

特に鉄道においては、鉄道事故発生の際は多くの人命に関わる事態に発展する可能性があるため、列車乗務員と運転指令所等が直接連絡をとることが出来る列車無線の整備は、鉄道事業者にとって極めて重要である。

とある通り、極めて重要なインフラとしての位置づけにあります。



この列車無線ですが、上記の通り列車事故が発生した場合にはその事故の状況が逐次やりとりされるため、日常生活を送る上でも普通に情報として便利です。
また、列車事故とまではいかないまでも、沿線におけるイベント発生時にはその旨注意喚起のアナウンスが流れたりするので、これまた便利だったりします。



さてその列車無線、普通のラジオと同じく、使用している周波数に合わせれば実は簡単に受信することができます(もちろんその周波数を受信できる機材は必要)。



しかし、1点だけ、列車無線特有の問題が存在します。


この列車無線、流石にライフラインを担う業務用だけあって、我々一般市民が使うような無線システムとはちょっと違います。
これまでトランシーバーを使ったことがある人は分かると思いますが、送信ボタンを押すと電波が出て通話ができ、ボタンを離すと受信状態に戻るというのが無線通信におけるよくあるスタイルです。

また身近な無線システムとしては携帯電話が挙げられますが、これも基本的には通話時に電波送信状態になり、通話が終わると送信が終了するという仕組みになっています。



列車無線は違います。



どう違うかというと、通話中であるか否かに関わらず、常に電波出っぱなしです。
加えて、通話していないときには「ピー」という音の空線信号と呼ばれる信号が常時流れています。


会話もしないのに電波出しっぱなしとは、もったいない!とも思いますが、これにはちゃんとした理由があります。


再びWikipediaの「空線信号」の項目を引用しますが、そこには以下のような説明があります。

空線信号(あきせんしんごう)とは、連続送信方式の基地局と通信する複信方式や半複信方式の無線局に、現在通話が行われていない事をわからせるために送出している信号のこと。

通常の無線機であれば、無音状態で通話が無いことと認識されるが、それでは無線機の故障で無音状態になっているのかとの区別がつきにくい。

また、基地局の電波が届くエリアにいるのかの判断もつきにくい。

そのため、一定のトーン信号を送出する事により、基地局の電波の届く範囲で、なおかついつでも通話可能な状態と認識させている。空線信号を受信している間は、無線機のスピーカーから音は出ず、通話のあるときだけ音声が出るようになっている。


一般庶民向けの「音声通話がある時にだけ電波を出す」という無線システムではなく、「音声通話が無いときには“通話無し”という信号を流す」という無線システムってことですね。理由を知れば納得の、非常に理に適ったシステムです。




が。


この空線信号、基本的に人間が聞く物ではなく、機械が聞いて判断するためのものなので、人間の耳にはとても耳障りです。

そしてこの「空線信号の有無をもってして通話中か否かを判定する」というものは、列車無線システムの独自ルールのような仕掛けなので、普通の受信機では解釈を行いません。スルーです。
つまり、空線信号がそのまま音としてスピーカーから出てきます。


その空線信号とはどんなものか、実際の空線信号を聞いてみてください。



    This text will be replaced
    JR東日本 Aタイプ列車無線空線信号



ウザいっしょ?


通話がないときはこれがずーっと受信機のスピーカーから聞こえてくるわけです。

列車無線は、何の問題もなく列車が平穏に運行されているときには基本的には通話が無いので、世が平和な場合はずーーーーっとこの音を聞き続ける必要があるって寸法です。



上記サンプルは約3秒弱ですが、これを数十分、数時間に渡って聞き続けることを想像してみてください。
私は根性無しなので、数分経ったあたりで、頭を掻きむしりつつアァァァァァァァオォォォォォォォウ!と叫び出しつつ受信機の電源をOFF!となるのが目に見えています。


これは立派な拷問だと思いますが、いかが?





いかに有益な情報が得られる「かもしれない」列車無線とはいえ、ずっとこのピー音を聞き続けるのは辛い物があります。


なんとかならないものか?




そこで私は考えました。




           |
       \  __  /
       _ (m) _ピコーン
          |ミ|
       /  .`´  \
         ∧_∧   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
        (・∀・∩<空線信号だけカットしちゃえばいいじゃん
        (つ  丿 \________________
        ⊂_ ノ
          (_)





ってことで、お待たせしました。
いよいよ本題に入ります。




列車無線ファン待望! 電子部品レスで作る
空線信号キャンセラー





「電子部品レスで」とか大仰に書いてしまいましたが、LCフィルタやトーンディテクタ等を使った回路を起こすといった事ではなく、PC上ですべてお手軽簡単にやってしまおうというのが今回のコンセプトです。


さて戦の前にはまず敵を知るところから始めるのは全てにおいての鉄則です。
まずは空線信号とは具体的にどのような信号なのかをググってみると、以下のことが分かりました。


  • 大きくはJR方式とNEC方式がある
  • JR方式はその名の通り全国のJR列車無線で使われている空線信号のこと。2280Hzの単一音トーン
  • NEC方式は主に私鉄で使われている列車無線システムで流れる空線信号。JR方式とは違い空線期間には1200bpsのMSK方式によるデータ通信が行われている


ふうむ、なるほど。
私はJRが通勤の足なので、JR方式の空線信号キャンセラーに着手!




まずはJR方式の空線信号をソフトウェアオシロにてスペクトラム分析。

おー、ものの見事に2280Hz近辺にビシっと山ができています。
ここまで綺麗だと挑みやすくて良いですね。



さてこういう場合は、邪魔者となるトーン信号の出現周波数に対して急峻な減衰特性を持つフィルタをかましてあげることで、邪魔者だけを取り除くというのが定番の解法となります。

この、「特定周波数に対して急峻な減衰特性を持つフィルタ」のことを「ノッチフィルタ」と言います。難しい言い方だと「低域阻止濾波器(BEF)」とか言うらしいです。


さてノッチフィルタです。
今回はPC上で全てを行うので、PC上でこのノッチフィルタを実現するソフトを使用すれば万事解決です。



そんなに都合の良いソフトがあるのか?というと、ちゃんとあります。
というか、このソフトに出会わなければこの記事を書いていなかったでしょう。


その名も「リアルタイム イコライザ」。
PCのオーディオ入力へ入力された音声に対して、ローシェルブ、ハイシェルブ、ピーキング、ノッチフィルタが適用でき、かつ、フィルタリングされた音声がリアルタイムでスピーカから聞こえてくるという、まさに今回の目的にピッタリなソフトです。



今回はノッチフィルタなので、EqualizerのNotchにチェックを付け、propでカットオフ周波数を2280Hzに設定。
そして、Do Equalizingをクリック!


すると...


おおっ!
空線信号だけがバッチリ消えている!!!!


と、これだけじゃ分からないのでソフトオシロの画像を。



すげーよすげーよ。
物の見事に綺麗に消えてるよオイ!






このように、いともあっさり目的を達成してしまったのですが、このリアルタイムイコライザ、残念ながら欠点があります。


それは、



いまいち安定性に欠けるということ。

リアルタイムに波形表示をしつつ、その音声データにフィルタをかけるという、素人目にもなかなかエグいことをしているので、その分無理が祟っているのかも知れませんが、我が家の環境(Windows2000 SP4とWindowsXP SP2)だと、10分〜15分近くで落ちてしまいます。


非常に有用なソフトだけに、コレは非常に惜しいです。


また、もうひとつ(個人的には)重要なポイントがありました。


このリアルタイムイコライザ、OS上では録音デバイスとして動作するせいか、これを動作させた状態では別の録音動作を行う(サウンドデバイスを掴む)ソフトを使用することができないのです。


これは何を意味するかというと

  • 例えば、PC上でTVの留守録ができない
  • 例えば、MSNメッセやYahooメッセでボイスチャットができない
  • 例えば、ノッチフィルタを通過した音をストリーミングで流せない(←家の中でだけだよ)

ということになります。

最後のやつは本当に個人的な楽しみ方になるのですが、無線LANカードを刺したPDAを家の中で持ち歩くだけで、いつでも何処でも好きなところで列車無線やテレビを見聞きすることができるという、携帯ラジオ・テレビっぽい楽しみ方を画策していたのですが、それができないと分かっていささか残念でした。
(使用予定のPDAはWindowsMobileなのでPDA側でリアルタイムイコライザを動かすという技は無しな..)



さてどうしたもんかと悩んでいたところ




    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | サウンドカードでさっくり処理できるらしいッスよ

       ̄ ̄ ̄|/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      ∧_∧       / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      ( ・∀・)  ∧ ∧ < マジで?
     (  ⊃ )  (゚Д゚;)  \_____
     ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ (つ_つ__
     ̄ ̄ ̄日∇ ̄\| ASUS |\
            ̄   ========  \







ということで、空線信号キャンセラー第2部に続く。





備考:

ちなみに列車無線に限らず、無線通信を聞くだけであれば法には触れません。

しかし、その通信が行われたという事実や、その通信の内容を漏らす、あるいは、その通信の内容を自己または第三者の利益のために利用するとアウトです。(電波法第59条「秘密の保護」の規定による)


これは無線従事者免許の裏面、しかもトップに書いてあるほど重要な条文です。

したがって、列車無線を聞いてたとえ有益な情報を知り得たとしても「聞かなかったこと」にして行動しましょう(笑)

もちろん、列車無線を聞いて知り得た情報を「列車運行情報スレ」や「グモスレ」(←意味が分からなければググってください)等に書き込むなんて行為は、もってのほかです。



ちなみに免許証の表面はこんな感じ。


お前、単に一陸特の従免見せたいだけちゃうんかと。
見せるならせめて一陸技や一総通ぐらいにしろよと。
はい。すんません。精進致します。


あ、ちゃんと無線局の免許状も持ってますよ。



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