AKAIのサンプラー、S2000。
例のPSE法によるビンテージ楽器リストに指定された、いわば日本国お墨付きのビンテージサンプラーです。
さて、上の写真をぱっと見て何か違和感を感じた方は、そこそこの通のお方。
このサンプラー、本来はFDDが入るべき位置に230MBのMOドライブが内蔵されています。
もともとSCSI機器の内蔵は全く想定されていないS2000ですが、いとも簡単に内蔵できてしまったりします。
以下にその改造方法を記しますので、興味有る方はやってみては。
注意点として、FDDを取り去ってしまいますので、過去の資産等でFDDにしか保存していないものがある場合は、一旦FDDとMOドライブを共存させた状態にしておき、データの待避などを行ってからFDDを取り去りましょう。
もちろん、最低1枚のMOメディアにはS2000のOSをインストールしておくように。
これを忘れると、起動できなくなってしまいますよ!
何はともあれ、フタを開けます。
中身はこんな感じで1枚基板のスッキリとした構成。
そこで基板をよ〜〜く見てみると...
SCSIチップIC(富士通のMB89352)の近くに、"S3000XL ONLY"とか書いてある怪しげな空きランドを発見。
これ、どう見てもSCSIコネクタ用のパターンでしょ!
念のため基板上のプリントパターンを追って確認してみたところ、外部SCSI端子へ行っているパターンに合流。
うむ。間違いない。これこれ。
早速アキバへ行き、お馴染みの千石で2.54mmピッチ・50ピンのボックスヘッダコネクタを所望。
あとはこのコネクタを例の空きランドに付けるだけです。
が、スルーホールがハンダで埋まっているので、ハンダ吸い取り線で50個のスルーホールからハンダを吸い取ってあげる必要があります。
これがなかなか面倒!
吸い取り切ったら、あとはコネクタをはめ込んでジャカジャカとハンダ付けしていけばOK。
50本のピンをハンダ付けしていくのは快感!
出来上がりが上の写真。
まるで最初からそこにあるかのように、綺麗に収まってるでしょ?
ハンダゴテが暖まっている間に、電源コネクタの用意もしてしまいましょう。
今回内蔵させようとしているのは3.5インチのMOドライブなので、+5Vさえ来ていればOK。
電源容量に若干の不安はあるものの、既存のFDD用電源ラインから分岐させてコネクタを付けちゃいましょう。
FDDを取り外し、代わりにMOドライブを装着。
そしてSCSIケーブルを這わせた状態。
あんまり長々と引きずり回すのは好きじゃないんだけど、かといってあんまりタイトにケーブリングしちゃうとそれはそれで不安。
OSが入っているMOメディアをドライブに挿入し、いざ電源投入!
しかし、どうも上手くブートしてくれません。
というか、MOドライブがスピンアップしようとするところを、何者かに邪魔されているような挙動です。
無理矢理言葉で書くと、
「ウイーン..チュルチュル..ゴソゴソ..ウイーン..チュルチュル..ゴソゴソ..」
この繰り返し。
しばらく考えたところで謎が解けました。
どうも、MOドライブが使用可能になる(メディアを認識して回転数を安定させて...の後にデータのやりとりが可能になる)その前の段階で、S2000のSCSIコントローラがMOドライブに対してSCSI Resetを投げているっぽい感じです。
しかもそのSCSI ResetはMOドライブの状態がどうであろうがお構いなしに、定期的にリセット!リセット!リセット!と投げているらしく。
そしてそれを受け取ったMOドライブは、
1. 電源投入
↓
2. メディアを認識
↓
3. 回転数を安定させて...
↓
S2000からSCSI Resetを受け取る
↓
4. MO装置リセット!
↓
(2に戻る)
といった無限回廊状態に陥っているっぽいです。
MOドライブにしてみれば、
ちょwwおまwww今メディア認識しようとしている最中www俺リセットされたwっwっっwまた最初からwwwwwっwwwっうぇ
みたいな感じ?
実際、内蔵/外付けに限らず、本体と同時にMOドライブの電源を入れ、MOから起動しようとしても同様の状態になりブートしません。
本体の電源投入よりも先にMOドライブの電源を入れておくと、すんなりMOから起動し始めます。
要は、MOを読みに行くまでの間に時間稼ぎのディレイがあればいいんだな。
うーん、なんか良い方法無いかな...
お、そうだ。
「FDD読みに行ったけどなんか読めなかった」状態にしてやればいいんじゃね?
そうすれば、「読みに行った→なんか読めなかった」の間は時間が稼げる。
その間に、MOドライブが準備オッケーな状態になってくれれば良し。
そうしよう。
だが、どうやって?
FDDインターフェースの仕様を確認すべく、たまたま手元にあったY-E DATA社FDDの製品仕様書を読んでみたところ、以下のような項目を発見。
うむ!これだ!
ディスクからデータを読み出そうとする際には、まずはヘッドをTrack00に持っていき、そこからヘッドを移動させてお目当てのトラックにあるデータを読み出す。
つまり、この "TRACK 00" を常にHIGHに固定してあげれば、「いつまで経ってもヘッドがTrack00に移動しない→タイムアウト待ちで時間が稼げる」??
試してみよう!
TRACK 00の信号ピンは26番ピン。
これを、リターンピンとなる25番ピンとショートさせてあげることで、「常にヘッドはTRACK00以外の場所」にあることになる。はず。
さて、この状態で再挑戦!
メディアを入れ、いざ電源投入!
↓
おおお!OSロード完了!
これは即ち...
∧∧∩
( ゚∀゚ )/
ハ_ハ ⊂ ノ ハ_ハ
('(゚∀゚ ∩ (つ ノ ∩ ゚∀゚)')
ハ_ハ ヽ 〈 (ノ 〉 / ハ_ハ
('(゚∀゚∩ ヽヽ_) (_ノ ノ .∩ ゚∀゚)')
O,_ 〈 〉 ,_O
`ヽ_) (_/ ´
ハ_ハ キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!! ハ_ハ
⊂(゚∀゚⊂⌒`⊃ ⊂´⌒⊃゚∀゚)⊃
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ってやつですな!
ただ、この方法にも問題があって、「ディスクは入っているんだけど上手く読めない」状態を作り出しているので、FDDを読みに行くシーンでは以下のような表示が出てきます。
↓
今回のようにFDDレスのMOブートした場合でも、起動直後に一度出てきます。
どこからブートしたかにかかわらず、OS起動後に1回はFDDを見に行くようで、その際に上記のような表示が出てきてしまいます(実害はありません)。
これ、本体のみで使用している際には問題がないのですが、M.E.S.A.等と組み合わせて、サンプラーを直接制御するソフトからFDDの中身を見に行こうとした場合、サンプラーからMESA等の制御ソフトへ「FDDうまく読めないっす」という情報がうまく伝わらず、最悪の場合制御ソフトがハングアップ状態になってしまう場合があります。
それを解決させるためには、
- 起動時には、「ディスクあり+うまく読めない」の状態にしなくてはいけない
- OS起動後には「ディスク無し」の状態にしなくてはいけない
ということになります。
そんなうまいこと制御できんのかいなと思いましたが、S2000起動時の様子をよく観察してみると、OS起動後しばらくした段階で「カチッ」と小さな音がします。
これ何かっつうと、音声出力をONにするリレースイッチの切り替わる音。
恐らくD/Aやオペアンプなどのアナログ回路が安定して動き出すまでの間はラインアウトをカットするという配慮の元に入っているリレースイッチだと思いますが、これを使うことで上記のディスクステータス切換が可能になります。
「ディスク有り/無し」の切換は、先ほども登場したY-E DATAの製品仕様書によると "DISK CHANGE" 信号を弄ってやれば良さそうです。仕様書曰く、
3.1.2.5 DISK CHANGE(ディスク・チェンジ)
この信号はディスクが抜かれたことを示します。
電源投入後またはディスクが抜かれたときに“LOW”レベルになり、下記のリセット条件をすべて満足するまで保持します。
リセット条件が満たされると“HIGH”レベルになります。
1.ディスクが挿入されている。
2.ドライブが選択されて、ステップパルスを受け付けたとき。
ということなので、ちょっとしたリレードライブ回路を組んで、音声出力リレーのON/OFFに応じてDISK CHANGEをHIGH/LOWしてあげれば良さそうな感じです。
基板上を追ってみると、リレーのすぐ脇にある、いかにも逆流防止用ダイオードっぽいもののアノード側が
- ミュート時には+15V
- ミュート解除時には+2.4V
と変化することを見つけました。
これを利用することにしましょう。
関係ないすけどオペアンプはM5218Aを使用していますね。
オペアンプ換装マニアはこいつを変えてみて音の違いを楽しむというのもまた一興かもしれません。
話を戻します。
で、すげえ適当に書いた回路図がこちら。
音声リレーのドライブ電流を引っ張ってきて、回路図上の "Relay Driv" に入れて上げればリレーがON/OFFし、TRACK 00をGNDに落としたりDISK CHGをGNDに落としたりするってな算段です。
単純なオープンコレクタ回路で、トランジスタはどこでも買える超定番の2SC1815を使用してみました。つうか手元のパーツ箱には山ほどあるので1石スイッチング回路程度なら何も考えずに俺はこれを使っちゃいます。
たまたま掴んだトランジスタのhFEを計ってみると、実測値で約200だったので、それにあわせて抵抗値を入れています。
hFE値が異なる他のトランジスタを使ったりした場合はそれに合わせて抵抗値も変えてみてください。
計算上では、
R ≒ (15v - 0.6v ) / 2 x 0.5mA
って計算式で出してまして、ベース電流が約1mAでエミッタコレクタ間電流が約200mAってところ。これもたまたま手元にあったリレーが約200mAで駆動するためにそのような値になっています。使用するリレーに応じてこれもまた抵抗値は変えてください。
さて回路自体は全然単純簡単なのでユニバーサル基板上にサクサクと組んでいけばOKでしょう。出来上がったら軽く動作テストをしてみて、OKそうだったらふたを閉めてオシマイ!
今までFDDを突っ込んでジーコジーコやってたのがアホらしくなるぐらい快適に!まだまだ十分いけますぜ!
M.E.S.A.等のサンプラー制御ソフトを使えば更に快適!鬼に金棒!
というか本体だけじゃとてもエディットなんかやってらんねえっすよ。
なお、今回はMOドライブを内蔵させましたが、応用でSCSI HDDやSCSI接続のカードリーダーを内蔵させる事もできます。
SCSI接続のカードリーダーの場合は、初期化にかかる時間は凄く短いので、今回のように無理矢理ディレイをかける必要はないでしょうし、DISK CHANGEを常時ジャンパしておくことで常に「FD入ってないよ」状態にしておくこともできるので、「FD読みに行ったけどエラー」な状態を回避することができます。
普段はコンパクトフラッシュメディアなどを刺しっぱなしにしておけば、CFブートの超高速起動+大容量リムーバブルメディアの恩恵にあずかることができますので、SCSI接続のカードリーダーが入手できれば、そっちの方がお勧めかもね。
2007/06/12追記
私が使っているMOドライブ、古いせいもあって読み書き時に電力を食うのか、MOアクセス時にはLCDパネルのバックランプが若干薄暗くなってしまってました。
そこでMOドライブの電源を、本体基板上のSCSIコネクタ脇にある空きランドから取るように変更してみました。
「P21」と基板上に印刷されているランドが電源採取ポイント。
基板のパターン見れば分かると思いますが、本体背面側(基板上の印刷では1番)が+5Vで前面側(2番)がGNDです。
経過は今のところ良好で、MOアクセス時にLCDパネルが暗くなるなんてことは無くなりました。
今後この改造を試される方は、ここから電源を取ることをオススメします。
実はこの電源採取ポイント、SCSIコネクタを増設する時点で気付いてはいたのですが、このランドに合うコネクタを買ってくるのを忘れてしまって、しょーがないのでFDD用の電源ラインから分岐させたってのが舞台裏の真相です。
その時も、FDD用電源ラインのプリントパターンの細さにちょっとだけ不安になりましたが、まさに不安は的中って感じです(笑)。
なお、そこまでしてコネクタ使用に拘るのは、「基板ってやっぱ板じゃん!」「べろーんってケーブル出てる板ってやっぱダセエじゃん」という、私なりの妙なポリシーというか美学。
でも、今にして思えば「どうせ基板見ないし」と割り切ってしまって基板に直接電源ケーブルをブッ込んでハンダ付けしてしまったほうが良かったかな....
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